放射線取扱主任者ブログ

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物理でよく聞く〜加速器とは〜

 

 

 

どうも、初めまして、こんにちは、こんばんは。

Haruです( ´ ▽ ` )!

 

 

 

もう春一番のニュースも入ってきており、

季節の変わり目を感じているHaruです。

 

コロナウィルスもいよいよ国内でもパンデミックになりつつあり、

人の移動が頻繁に行われる春に向けて、一体どうなっていくのか不安ですね。。。。。

  

みなさん、季節の変わり目、体調にお気をつけください!

 

 

 

 

 

 

さてさて、今日は昨日のブログに書いたように、

私の専門である加速器というものについて書いていきたいと思います。

 

 

あまり詳細を書くと身バレするので書けませんが、加速器に関わる仕事をしております。そう、放射線取扱主任者がメインの仕事ではありません(笑)

 

 

 

 

 

 

 ところでみなさんは、加速器という言葉自体は聞いたことあるのでしょうか?

 たまに宇宙関連の研究で聞いたことがある人もいるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

加速器』とは、とても簡単にいうと、

電子や陽子などの荷電粒子を光速に近い速さまで加速する装置です。

 

 

 

 

 

現在では、先ほど述べた宇宙関連の研究の他に、放射線関係の物理研究、がんの治療、放射性医薬品の製造など、様々な用途に使用されております。

 

 

 

特に日本には放射性医学研究所という機関があり、加速器を使用したがんの治療で世界的に見てトップの治療実績を持っております。

 

むしろこの加速器を使用したがんの放射線治療を本格的に確立したのは、日本と断言してもいいくらいです。

 

 

 

 

 

 

今日はこの加速器について、基本〜実際の使用用途などまで迫っていきます!

放射線取扱主任者試験を受ける方も、サイクロトロンの基本を楽しみながら理解できるかなと思います。

  

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提供:Getty Images

 

 

 

[目次] 

1. 加速器の基本

2. 加速器の種類

3. 加速器の使用例紹介

 

 

 

 

 

1. 加速器の基本

まず、加速器の基本について書いていきます。

  

先ほど述べたように、加速器とは、 

陽子や炭素などの粒子を光速に近い速さまで加速する装置です。 

 

 

ではどのように加速するかというと、粒子は電場によって加速します。

(*以下の内容は高校物理で対応可能な内容なので、高校で物理履修した方などは2. 加速器の種類 まで読み飛ばしてください。)

 

電場というと少しわかりにくいかもしれませんが、

みなさんが知っている電気・電池と基本は同じです。

 

 

①粒子の加速方法

 

まず、電池にはプラスとマイナスがありますよね?

電気を通す金属2枚の金属板を用意して、それぞれプラスとマイナスのを電荷を帯びさせます。

*簡易説明のため簡略化してますが、正確にいうと金属板に単一の電化を帯びさせるわけではありません。2枚の金属板はあくまでつながっており、電極を高周波装置というもので高速に切り替えます。そうすることで金属板が複数枚になった場合でも、粒子の連続的な加速が可能となります。これを高周波加速と言い、現在の加速器の基本加速原理です。

 

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引用元:https://www2.kek.jp/kids/accelerator/accelerator01.html

 

 

そうすることで、その2枚の金属板の間の空間にはマイナスからプラス方向への電場が生じます。

その空間に粒子が入ると、その電場によって力を受け加速されるというわけです。

 

 

 

例えば粒子がマイナスの電荷を帯びた粒子の場合、

マイナスの金属板とは反発力、プラスの金属板とは引力が発生し、結果的にプラスの金属板方向に強く引きつけられます。

 

これを式で表すと、

粒子の電荷をQ[C]、2枚の金属板の間の電場の強さをE[V/m]としたとき、

粒子のうける力F[N]は、F[N] = QE となります。

 

これが加速器における、粒子加速の基本になります。そんなに難しくないですよね?( ´ ▽ ` )

 

 

 

 

しかし、粒子は加速されるだけでは制御できません。

例えば、先ほどマイナスとマイナスの電荷は反発すると言いましたよね?

 

ビームとは粒子の集まり、つまり同じ電荷の粒子が大量に固まっているわけです。

つまり、ビームは何もしなければ互いの粒子の電荷による斥力により、ビームの中心から外側に発散してしまいます(これを空間電荷効果と言います)。

 

 

そう、粒子は加速するだけでなく、制御も必要なのです。

ではどうやって制御するのでしょうか?

 

 

 

②ビームの制御方法

 

ビームの制御は、主に磁場で行います。

 

さて、また「〇〇場」という場所が出てきました。笑

そう物理の世界には、いろんな場が存在します。

(古典場、電場、磁場、重力場、量子場など)


 

 

でも大丈夫です、この場も先ほどの電場同様、それほど難しくありません。

なぜなら、磁石も電気もみなさんの身近にありますから。

 

 

電場と同じ感じで想像しましょう。

磁石にも、S極とN極がありますよね。

電場の時と同様に、S極とN極の間にビームがあると「フレミング左手の法則」という法則に従って偏向を受けます。

「フレミング左手の法則」による、S極とN極の磁場の向き、ビームの向き、力を受ける向きの関係性は以下の通り。

 

                Fleming's Left Hand Rule.png

 

*上図で電流とありますが、ここではビームのことです。

 

このように加速器では、磁場を利用してビームが発散しないように磁場で制御をかけます。

 

加速気でよく用いる磁石が、2極磁石と4極磁石というもの。

2極磁石は、上下方向もしくは左右方向のみに曲げることができ、ビームの走る場所(軌道)を決める重要な磁石です。

また4極磁石は、主に先ほど書いたビームの広がりなどを制御するものです(ビームを細く保つと書いたほうがわかりやすいかも?)。

 

 
 

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2極磁石の例:上下に磁石がついている。ビームを上もしくは下方向に曲げる。

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4極磁石の例:いくつか組み合わせることで、ビームを中心方向に収束させる

 

 

 

 

 

さて。ここまで来れば、加速器の基本はだいたい抑えました!

・粒子は、電場で加速する

・粒子は、磁場で制御する

 

 

では次の章では、加速器の種類についてですね!

 

 

 

2. 加速器の種類

ここでは一般的な加速器である、線形加速器サイクロトロン、シンクロトロンいついて書きます。

 

①線形(直線)加速器

まず最も単純なシステムで構築されているのが、線形加速器になります。

これは、電場を発生させる電極板を連続的にビーム推進方向に配置し、それらの電極に連続的に加速されるような高周波電場をかけることで粒子を加速します。加速方向は常に進行方向で、ビームは直進し続けます。

 

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線形加速器の例:アルバレ型線形加速器

 

また線形加速器は、配置する電極の数を増やすことで、粒子を光速度まで限界なく加速することができます。

ただ目標速度が速くなればなるほど、必要な加速距離は指数関数的に増大します(光速度に近づくにつれ、加速されにくくなるため。次のサイクロトロンの箇所で説明)。

そのため線形加速においては、目標速度が速いほど施設も大きくなるというデメリットがあります。

 

とはいえ、やはり単純なシステムで光速度まで加速できるため便利ですね。

また粒子は光速に近づくにつれ、曲がるときに放射光という光を放ちエネルギーを落としてしまいます。そういった意味でも、直線的な加速を行う線形加速器は、高エネルギー加速においては利があるといえます。

 

 ○線形加速器まとめ

主な加速粒子:主に電子

加速エネルギー:数KeV ~ 数GeVまで

メリット:機器構成が比較的簡単、ビーム制御が行いやすい、放射損失が少ない

デメリット:加速エネルギーの増大に伴って、施設が大きくなる

使用例:物理(特に原子核系の実験)、がんの電子線治療(皮膚がん,etc)など

 

 

 

 

サイクロトロン

次に一般的なのが、サイクロトロンと呼ばれるもの。サイクロは英語でCycloと表記し、回転運動を意味します。この意味通り、サイクロトロンでは粒子を回転させながら加速させます。

 

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放射線概論より引用

 

 

まずサイクロトロンの中心部に、イオン減という粒子を生み出す場所からイオンが入ってきます(*ここでイオン減については触れませんが、電子や陽子を生み出すものです)。

中心部に入ってきた粒子は、Dee電極という電場をもった電極によって加速を受けます。加速方向は、常に円の中心部に対して外側を向きます。

次に粒子を制御するために、磁場をかけます。

磁場は加速方向とは垂直な方向でかけることで、粒子の運動方向を円の中心部の向かわせます(フレミング左手)。

この磁場の力(向心力)と粒子の遠心力がせめぎ合い、粒子は設定したエネルギーまでくるくる回転運動をしながら加速されます。

最終的に加速された粒子は、加速範囲から外れサイクロトロンの外側に飛び出します。

 

ここでサイクロトロンにおいて、磁場は一定の強度です。しかし粒子は、速度の上昇とともに遠心力が増大します。

これは車の運転を想像すればわかりやすいですが、速いスピードで曲がると外側に吹っ飛ばされそうになりますよね?そう、遠心力は速度に比例し増大します。

しかし先ほど述べたように、磁場による向心力は一定。ということは、粒子は加速とともにだんだんと外側の力が増大し、内側から外側へと弾き出されるのです。外側に行くにつれ、当然粒子が周回する距離も伸びますね。

 

ここで重要なのが、粒子が一周する周期(時間)というのは常に一定であるということ。それは先にも述べたように、速度が増加した分に対して、周回する距離も伸びているためです。距離=速度×時間 という式を見れば、距離と速度の比が一定なら、時間も一定です。

そのためサイクロトロンでは、粒子の回転周期というものは常に一定で、ある時間経過したら必ず同じ場所に戻ってきます。

 

 

 

 

次に加速限界について。

線形加速器では、ある意味加速限界がないと言いました。サイクロトロンは、どうでしょうか?

残念ながらサイクロトロンは、相対論的問題から加速限界が訪れてしまいます。

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 粒子に限らず、物質は光速に近づくほど質量が増大し加速しにくくなります(特殊相対性理論から導かれる)。

 そのため光速に近づいた粒子は、他の粒子と加速場所へ戻ってくるタイミングが違い、加速するタイミングがずれてしまうのです。

 これをカバーするために改良型サイクロトロン がいくつかありますが、より高エネルギー帯ではシンクロトロンによる加速が一般的となってきます。

 

  サイクロトロンまとめ

主な加速粒子:陽子、重陽子、4Heなど

加速エネルギー:数KeV ~ 数百MeVまで

メリット:機器構成が比較的簡単、施設がコンパクト、容易にMeV程度のエネルギーまで加速可能

デメリット:加速エネルギーの増大に伴って、質量の増加のため加速限界が訪れる

使用例:がんの陽子線治療(肉腫など)、放射性医薬品の製造(がんなどの診断薬)

 

 

 

 

③シンクロトロン

シンクロトロンは、概念やイメージ的にはサイクロトロンと似ています。

ただサイクロトロンと違って、名前の通り何かが何かにシンクロしているのです。

 

それは、電場と磁場が粒子の速度に対してシンクロしているのです。

どうなるのかというと、

・電場を粒子速度に同調 → 粒子の質量増大による回転周期のずれを補正し、加速タイミングを合わせることができる。そのためサイクロトロンよりも加速可能範囲が広い。

・磁場を粒子速度に同調 → 粒子の回転半径が一定となる。そのため、光速に近づいて強くなった遠心力にも耐えられ、加速領域に粒子がおさまる。

 

 

おぉ、すごい!!

半径を保ちながら、粒子を非常に高速度まで加速できるなんて!!

でも、・・・・・文字で伝わるかと思いますが、残念ながらビーム制御・機器構成がサイクロトロンと比べ段違いに難しいです。またどうしてもサイクロトロンに比べ施設が大きくなってしまい、非常にお金のかかる機器です。

 

 

 

 

 

では次に加速限界について。

もしかして、、、、シンクロトロンなら無限に加速が可能??

 

 

 

 

 

残念ながら、答えはNoです。

シンクロトロンは、線形加速器のところで述べた放射損失というのが問題になってきます。 * 粒子の速度が速くなるほど、粒子が曲がる時に放射光という光を放ちエネルギーを失います。これは重い粒子ほど顕著で、この放射損失が問題となり光速までなかなか加速できません。

 

とはいえ、電子などであれば光速の99.9%まで加速できており、もうこの世の最高速度である光の速度まで加速できています。

そのため加速能力で言えば、今現在最強の加速器と言えるでしょう。

 

 ○シンクロトロンまとめ

主な加速粒子:基本的になんでもOK

加速エネルギー:数KeV ~ 数T[テラ]eVまで

メリット:超高エネルギーまで加速可能

デメリット:放射損失によって加速限界が訪れる、機器構成・ビーム制御が非常に困難、機器構成上の理由で施設が巨大になる

使用例:がんの陽子線治療(肉腫など)、放射性医薬品の製造(がんなどの診断薬)

 

 

 

 

3. 加速器の使用例紹介

ここでは、加速器の使用例を紹介します。

主な使用例はここまででも少し述べてきましたが、ピックアップしていくつか詳細に。

 

 

①がんに対する放射線治療

これについては、過去記事でも詳しく述べているのでそちらの記事を参照とします。

主に以下のような加速器を使用したがんの治療方法があります。

・電子線(線形加速器)のよる皮膚がん治療

・粒子線(陽子線(サイクロトロン)、重粒子線(シンクロトロン))による肉腫などの治療

中性子とアルファ粒子によるがん治療(BNCT)

 

haru-radiation.hatenablog.com

 

 

 

②宇宙に関する実験

まず、なぜ加速器が宇宙と繋がるのかというところ。 

そもそも粒子は、電子や陽子などミクロなものを加速するためのもの。

そんな小さいものと、広大な宇宙がなぜつながるのでしょうか?

これは、次のような絵で説明できます。

 

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ウルボロスの蛇(参照:https://www2.kek.jp/ja/newskek/2006/novdec/Satointerview.html

 

この絵は、ミクロ世界の存在である素粒子(電子や陽子などよりもさらに小さい粒子)と広大なマクロ世界の宇宙は密接に関係していることを示しています。

 

宇宙というのは、元々非常に高エネルギーの点だったと考えられています(諸説あります)。加速器では光速度まで加速した粒子同士をぶつけ、通常ではありえない宇宙初期に似た非常に高エネルギー状態を作り出します。

そのような高エネルギー状態では、私たちが普段体験できる物理理論を超越した物理現象が観察されます。加速器を使ってそのような宇宙初期のような状態を作り出すことで、宇宙起源の謎に迫ることができるのです。

 

 

最近最も加速器による宇宙研究で成果を出したものが、ヒッグス粒子です。

名前はなんとなく聞いたことがありますかね?

このヒッグス粒子は、7TeVという非常に高エネルギーまで加速した陽子同士を衝突させ、ビックバンの10のマイナス12乗後を再現することで発見されました。もう意味がわかりませんね(笑)

 

このヒッグス粒子ですが、質量の起源と言われています。

私たちには認識できませんが、この世界にはヒックス場という場が存在し(また〇〇場や・・・・)、ヒッグス粒子で満たされているという。そしてこのヒッグス粒子が満たっていることで、私たちが動こうとするときにヒッグス粒子が邪魔となり動きにくくなる=質量が生まれるらしいです。

正直、量子論相対性理論原子核理論の頂点を極めた方たちの考えていることなので、私にはなんのこっちゃわかりませんね。( ´ ▽ ` )

 

まぁ、ここで重要なのは!

加速器は高エネルギー同士の粒子をぶつけることで宇宙初期を再現でき、宇宙の謎に迫れるということです!笑

 

 

 

放射性廃棄物の処理

 個人的に非常に注目しているのが、これです。

 日本でも問題になっていますが、原子力施設などから出る放射線を出す廃棄物(放射性廃棄物)の処理に加速器を使うというものです。

 

この放射性廃棄物は、数百年という単位で放射線を出し続けるものがあります。このようなものは、普通に捨てることができず、地中に埋めるなどの処理しか現状できない状態にあります。しかし地中に埋めると言っても、環境への影響を試算するのは容易ではなく、地域住民の理解を得るのも非常に困難だと思われます。

 

そこで、加速器の出番です。

  

放射性廃棄物に対して、加速器で加速した粒子をぶち当てることで、核変換をおこします。そうすると通常数百年放射線を出し続けるはずだったゴミが、数年で放射線が出なくなるゴミに変わるというものです。

これは現在日本で実際に計画されていて、ImPACTというプロジェクトの中で研究が進んでいます。

 

私も普段放射線取扱主任者の仕事で放射性廃棄物の管理を行っていますが、高レベルの放射能を持ったゴミの処理はとても困難です。そのためこの計画が実際に成功すれば、国内のみならず世界的な核廃棄物の処理問題の突破口となり得ます。

 

今後の実験報告に期待ですね!

www.jst.go.jp

 

 

 

 

 

 

さぁ、今回は加速器についてまとめてきました。

なかなか加速器について触れることはないと思うので、少しでも楽しんで頂けたなら幸いです^_^

 

 

 

次回ですが、よく漫画とかで荷電粒子砲って出てきますよね!

あれが実際に実現可能か、今回の記事の知識を引き継ぎながら、検証記事を書きたいと思います。

 

 

 

 

『次回予告:ヤシマ作戦は、実現可能か』

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引用: https://ham-ichi.at.webry.info

 

 

次回もサービスサービス♫